歌詞の基本
前の章では、歌メロが楽器メロディと違う制約(音域・ブレス・跳躍)を持つことと、 言葉の音節数とメロディの音数を合わせることを学びました。この章では、もう一方の 柱である 歌詞 の基本を押さえ、さらに 歌いにくい歌メロをどう直すか を 聴き比べで確かめます。土台はこれまでと同じ共通題材 C メジャー / 90 BPM です。
歌詞の基本3つ
歌詞づくりは奥が深いテーマですが、ここでは歌メロと噛み合わせるうえで欠かせない 3つの基本に絞ります。
1. テーマを決める
歌詞には テーマ——その曲で何を伝えたいか——が必要です。「夕暮れの帰り道」 「会えない友だちへの手紙」のように、ひとつの場面や気持ちに絞る と、言葉に 一貫性が生まれ、聴き手に伝わりやすくなります。あれもこれもと詰め込むより、 ひとつのテーマを軸にしたほうが、メロディに乗せたときにも芯が通ります。
2. 1フレーズの字数を、メロディの音数に合わせる
前章で見たとおり、日本語の歌は 1つの音に1音節 を当てるのが基本です。 そのため、1フレーズの歌詞の字数(音節数) を、そのフレーズのメロディの 音数(休符を除いた音の数) に合わせると、言葉が無理なく乗ります。
- 字数が音数より 多い と、余った言葉を詰め込むことになります(=字余り)。
- 字数が音数より 少ない と、音が余って間延びします(=字足らず)。
どちらも歌いにくさの原因です。歌詞を当てるときは、まずフレーズの音数を数え、 それに合う字数の言葉を選ぶ——この対応を意識するだけで、ぐっと歌いやすくなります。
3. 伸ばす音には母音を意識する
フレーズの終わりなどで音を長く伸ばす ロングトーン には、母音(あ・い・う・ え・お) が乗ります。とくに口を大きく開ける「あ・お」などの開いた母音は、 伸ばしたときに声が響きやすく、歌っていて気持ちよく決まります。逆に、伸ばす音に 言いにくい子音やつまる音が来ると、ロングトーンが活きません。伸ばしたい音には 開いた母音の言葉を置く——これも歌詞とメロディを噛み合わせるコツです。
歌いにくい歌メロと、その改善
ここからは、歌いにくい歌メロ の典型と、それを 直した改善例 を聴き比べ・ 見比べます。前章の3つの制約(音域・ブレス・跳躍)と、いま学んだ字数の対応が、 実際の歌いやすさにどう効くかを耳と目で確かめましょう。
悪い例:音域が広すぎる/ブレスが取れない/字余り
まずは 歌いにくい例 です。下のピアノロールで形を見ると、音が上下に大きく 散らばっているのが分かります。
この歌メロには、歌いにくさの原因が3つそろっています。
- 音域が広すぎる — いちばん低い C3 からいちばん高い C6 まで、3オクターブにも わたります。声でこの幅をカバーするのはまず不可能です。
- ブレスが取れない — 休符が 1つもありません。最後まで一息で歌う羽目になり、 息が続きません。
- 跳躍が大きすぎる/字余りになりやすい — オクターブを超える大跳躍が連続し、 しかも全部が短い8分音符に詰め込まれています。言葉を当てようとすると、急いで 押し込む 字余り の形になってしまいます。
実際に聴いてみましょう。音そのものはすべて C メジャーの音(調は合っている) ですが、それでも とても歌えない ことが分かるはずです。
改善:音域を狭め、跳躍を小さく、ブレスを入れる
次に、同じ「歌メロを当てる」題材を、3点を直した 改善例 です。
- 音域を狭める — C3〜C6(3オクターブ)から、C4〜C5(約1オクターブ内) へ。
- 跳躍を小さくする — オクターブ超の大跳躍をやめ、順次進行と3度までの小跳躍 に。
- ブレスを入れる — 休符ゼロから、フレーズの終わりに 2か所の休符 を足し、 そこで息継ぎ。終わりの音はロングトーンにして、詰め込み(字余り)もほどきます。
ピアノロールで見ると、音が狭い帯に収まり、フレーズの終わりに「間」(ブレス)が できているのが分かります。実際に聴いて、悪い例と比べてみましょう。
まとめ
歌詞の基本は、テーマをひとつに絞る・1フレーズの字数をメロディの音数に合わせる・ 伸ばす音には開いた母音を置く の3つです。そして、歌いにくい歌メロ(音域が広すぎる /ブレスが取れない/字余り)は、音域を狭め・跳躍を小さくし・フレーズ末にブレス 休符を入れる ことで歌えるように直せます。悪い例と改善例を PianoRoll で見比べ、 PhrasePlayer で聴き比べて、その差を確かめました。次の章末演習では、ここまで学んだ 歌える音域・ブレス・字数の対応を使って、短いセクションに歌メロとダミー歌詞を当てる 課題に取り組みます。