DAWの基本概念

DAW(ディー・エー・ダブリュー)とは Digital Audio Workstation の略で、ひとことで言えば コンピュータ上で曲を組み立てる作業場 です。前のイントロで触れたとおり、この編の主教材は GarageBand ですが、ここで学ぶ概念はどの DAW にも共通します。実際に操作を始める前に、 この章で繰り返し出てくる 基本の言葉 を先に押さえておきましょう。言葉の意味さえつかめば、 次のレッスンからの「画面を見ながら手を動かす」作業がぐっと楽になります。

このレッスンは 概念の地図 です。ここで定義する言葉(トラック・リージョン・ソフトウェア 音源・MIDI 打ち込み・ループ素材・テンポ/拍子/グリッド)は、以降のレッスンでは 意味を説明し直さずそのまま使います。忘れたら、このページに戻ってきてください。

まず全体像:DAW は「縦にパート、横に時間」

具体的な言葉に入る前に、DAW の画面の 基本のかたち をイメージしておきましょう。 ほとんどの DAW は、画面の大きな部分が 格子状(マス目状) になっています。

  • 縦方向 には、ドラム・ベース・ギター・歌……といった パートが積み重なって います。
  • 横方向時間の流れ(左が曲の始まり、右が終わり)です。

この「縦=パート、横=時間」という見方が、これから出てくる言葉すべての土台です。 楽器編で各パートを別々に作り、バンドとして重ねて聴いたのと同じ発想を、DAW では 画面の上で縦に積んで横に流す ことで実現します。

トラック ― パートごとの「レーン」

トラックが曲の中で担うのは、パートを分けて管理する 役割です。トラックが分かれている おかげで、あとから「ベースだけ音量を下げる」「ギターだけ消して聴く」といった操作が パート単位でできます。楽器編で ドラム・ベース・ギター・シンセ を別々のパートとして 書いたのを思い出してください。あれをそのまま、DAW では 別々のトラック に載せます。

一般的な DAW でも呼び名は同じ「トラック(track)」 です。Logic Pro でも Cubase でも Ableton Live でも、縦のレーン1本を「トラック」と呼びます。ここはどの DAW でも共通の言葉です。

ソフトウェア音源 ― トラックに「音色」を与える

トラックはあくまで 入れ物(レーン)です。そのトラックが「どんな音で鳴るか」を決めるのが ソフトウェア音源 です。

曲の中での役割は、各パートの「楽器選び」 です。同じメロディでも、ピアノで鳴らすか シンセで鳴らすかで雰囲気はまるで変わります。トラックを用意したら、そこに どのソフトウェア 音源を載せるか を選ぶ——これが「楽器を決める」操作にあたります。

一般的な DAW では「ソフト音源」「インストゥルメント(instrument)」「バーチャル インストゥルメント(VST/AU インストゥルメント)」 などと呼ばれます。GarageBand では 「ソフトウェア音源」という呼び名が使われます。考え方は同じで、コンピュータ内蔵の楽器を トラックに割り当てる ことを指します。

リージョン ― トラックの上に置く「音の入った箱」

トラック(レーン)を用意し、ソフトウェア音源(音色)を決めても、まだ音は入っていません。 実際の演奏内容を入れる にあたるのが リージョン です。

曲の中での役割は、演奏のかたまりを時間軸に並べる ことです。たとえば「4小節のコード進行」を ひとつのリージョンにしておけば、それを 横にコピーして並べる だけで「同じ4小節をくり返す」 展開が作れます。アレンジ(第18章)で「セクションをコピーして曲を伸ばす」のは、まさにこの リージョンを並べ替える操作です。

一般的な DAW では「リージョン(region)」「クリップ(clip)」「イベント(event)」 などと 呼ばれます。Ableton Live では「クリップ」、Cubase では「イベント」「パート」という言い方を しますが、いずれも トラック上に置く演奏のかたまり という点は同じです。

MIDI 打ち込み ― 音符を「データとして」書き入れる

リージョンの中に どうやって音符を入れるか。その代表的な方法が MIDI 打ち込み です。

曲の中での役割は、演奏が苦手でも、思いどおりの音符を正確に置ける ことです。これは ブラウザ教材の ピアノロール で、マス目をクリックして音を置いてきたのとまったく同じ 考え方です。MIDI 打ち込みは「音そのもの(オーディオ)」ではなく「演奏の指示(データ)」を 扱うので、あとから音の高さ・長さ・位置を自由に直せる のが大きな利点です。

打ち込みの画面には主に2種類あります。

  • ピアノロール — 縦が鍵盤の高さ、横が時間のマス目。音をブロックとして置く 画面で、 ブラウザ教材のピアノロールとそっくりです。打ち込みの主役はこちらです。
  • スコアエディタ(譜面表示) — 同じ打ち込み内容を 五線譜の形 で表示・編集する画面。 楽譜が読める人には分かりやすい見せ方です。

一般的な DAW でも「MIDI」「MIDI ノート」「ピアノロール」という言葉は共通 です。打ち込む ことを「MIDI を入力する」「ノートを置く」などと言います。GarageBand でも他の DAW でも、 ピアノロール状の画面でノートを置く という基本操作は変わりません。

ループ素材 ― できあいの演奏を「貼って使う」

すべてを1音ずつ打ち込まなくても、できあいの短い演奏 を貼り付けて使う方法もあります。 それが ループ素材 です。

曲の中での役割は、土台づくりを手早く済ませる ことです。たとえば「とりあえずドラムの リズムを置いて曲の雰囲気をつかむ」「打ち込みが追いつかないパートをループで仮置きする」 といった使い方ができます。自分で打ち込む(MIDI 打ち込み) か、できあいを貼る (ループ素材) か——この2つを場面に応じて使い分けます。

一般的な DAW でも「ループ(loop)」「ループブラウザ」「サンプル/素材ライブラリ」 などと 呼ばれ、付属の素材集から選んで貼る、という使い方は共通です。

テンポ・拍子・グリッド ― 時間を「マス目」で区切る仕組み

最後に、打ち込みの 位置をそろえる ための3つの言葉です。これらは理論編で学んだ 拍・拍子・BPM の考え方を、DAW の画面の上で扱うための仕組みです。

曲の中での役割は、全パートのタイミングをそろえる共通のものさし です。テンポと拍子を 決めると、画面に グリッド(マス目) が引かれ、どのトラックの音符も同じ目盛りの上に 置かれます。だからドラム・ベース・ギターがバラバラに鳴らず、ぴったり合って 聴こえる わけです。ブラウザ教材のシーケンサーで「16ステップ=1小節」のマス目に音を置いたのと同じで、 DAW のグリッドも 時間を等分したマス目 だと考えてください。

まとめ:言葉どうしのつながり

ここまでの言葉は、バラバラではなく ひとつの流れ でつながっています。最後に関係を 整理しておきましょう。

言葉ひとことで言うと曲の中での役割
トラックパートごとの縦のレーンパートを分けて管理する
ソフトウェア音源トラックに与える音色各パートの「楽器」を決める
リージョントラック上に置く音の箱演奏のかたまりを時間軸に並べる
MIDI 打ち込み音符をデータとして入力思いどおりの音を正確に置く
ループ素材できあいの短い演奏土台を手早く置く・補助に使う
テンポ/拍子/グリッド時間のものさしとマス目全パートのタイミングをそろえる

流れにすると——トラック を用意して ソフトウェア音源(音色)を決め、その上に リージョン を置き、中に MIDI 打ち込みループ素材 で音を入れ、テンポ・拍子・ グリッド に沿って位置をそろえる。これが DAW で1パートを作る基本のサイクルです。これを パートの数だけくり返し、縦に積み上げれば曲になります。

言葉の地図がそろいました。次のレッスンでは、いよいよ GarageBand を立ち上げて、 新しいプロジェクトを作り、テンポを決め、ソフトウェア音源トラックを追加して、実際に1音 鳴らす ところまでを、画面を見ながらやってみましょう。