モチーフの展開

前章で、モチーフ(短い特徴的な音型)フレーズ(モチーフをつないだまとまり) を定義しました。この章では、モチーフを 展開 して——つまり反復したり変化させたり して——フレーズへ広げる、基本的な手法を学びます。展開の出発点は前章と同じモチーフ C5 → D5 → E5(短短長の上行) です。まずこの「元の形」をもう一度聴いておきましょう。

これから示す展開例は、すべてこのモチーフを基準にして「どこを保ち、どこを変えたか」を 聴き比べます。元 → 展開後 の順に鳴らして、関連を保ちながら変化していることを耳で 確かめてください。

展開手法その1:反復

もっとも基本的な展開は 反復 です。モチーフを音高もリズムも変えず、そのまま くり返します。反復は、聴き手にモチーフを 覚えさせる はたらきがあります。同じ形が 戻ってくると、メロディに統一感が生まれます。

下のピアノロールは、モチーフ(C5→D5→E5)を そのまま2回 つないだものです。 上で聴いた元の形が、まったく同じかたちで戻ってくることを確かめてください。

反復は統一感を作る一方で、くり返しすぎると単調 になります。だからこそ、次に学ぶ 「移高」や「リズム変化」と組み合わせて、変化を加えることが大切になります。

展開手法その2:移高

移高(いこう / transposition) は、モチーフの 形(リズムと音程の動き)を保った まま、開始音を変えて上下にずらす 手法です。形は同じで高さだけが変わるので、元の モチーフとの関連を保ったまま、変化を付けられます。

ここでは、C メジャースケールの中で スケール1段上 へずらす、ダイアトニック移高 を使います。半音単位でずらす(クロマティック移高)のではなく、スケールの音で動かす ので、F# のようなキーから外れる音は出てきません。初心者のうちは、この キー内での移高 に徹すると安全です。

下のピアノロールは、1小節目に元のモチーフ(C5→D5→E5)、2小節目にそれを ダイアトニックに1段上げた D5→E5→F5 を置いたものです。リズムは元のまま (短短長)で、同じ上行の形が、高さだけ変わって 戻ってくるのを聴き取って ください。反復よりも動きがあり、それでいて元の形は保たれています。

展開手法その3:リズム変化

3つめは リズム変化 です。こんどは逆に、音高の並びは保ったまま、音価=リズム だけを変えます。同じ素材でも、リズムが変わると印象ががらりと変わることを 体験しましょう。

元のモチーフは「4分・4分・2分(短短長)」でした。これを、より細かく刻んで 8分・8分・8分・8分・4分 に置き換え、音高は C→D の往復から E への上行 (C5→D5→C5→D5→E5)にして、弾むリズムにします。最後の E5 を長めに残して、元の モチーフの「長い着地」の感じは受け継ぎます。

音の素材(C・D・E の上行)は元のモチーフとつながっているのに、リズムが変わるだけで 軽快で動きのある印象 になります。元の「短短長のゆったりした山」と聴き比べると、 リズムが印象をどれだけ左右するかが分かります。

反復と変化のバランス

展開の手法が分かったら、次は 使い方のバランス です。モチーフを育てるときは、 反復(同じ)変化(動き) をほどよく混ぜることが大切です。バランスは 2つの方向に崩れます。

  • 同じすぎる — モチーフをずっと同一反復するだけ。統一感はあるが、単調で 飽きてしまう。
  • バラバラすぎる — 各小節が無関係な断片で、共通のモチーフがない。動きはあるが、 まとまりがなく覚えられない。

良いフレーズは、この両極のあいだにあります。同じモチーフがくり返されて統一感が ありつつ、ところどころに変化(移高・リズム変化)が入って、最後にまとめる —— そんな配分です。良い例と悪い例を聴き比べてみましょう。

良い例:反復と変化が両立している

下の 良い例 は4小節のフレーズです。元のモチーフを核にして、反復と移高を 織り交ぜています。

  • 1小節目(I=C):C5→D5→E5 ——モチーフをそのまま提示。
  • 2小節目(V=G):C5→D5→E5 ——反復して覚えさせる。
  • 3小節目(vi=Am):D5→E5→F5 ——ダイアトニック移高で変化を付ける(形は保つ)。
  • 4小節目(IV=F):C5→D5→E5 ——元の形へ戻してまとめる。

同じモチーフがくり返されて 覚えやすさ(統一感) がありつつ、3小節目の移高で 動き(変化) が入り、最後に元へ戻って一区切り。反復と変化の比率がほどよく、 「飽きないのに、まとまっている」のが聴き取れます。

悪い例:バラバラすぎる

下の 悪い例 は、同じく4小節ですが、各小節が てんでばらばらの動き で、 共通のモチーフがありません。1小節目は跳躍、2小節目は順次下行、3小節目はまた別の 跳躍、4小節目は順次上行——和音(キー)には合っていても、くり返される特徴的な 音型がない ので、散漫に聞こえます。

良い例と聴き比べると、違いは音が合っているかどうか ではありません。どちらも C メジャー内の音です。違うのは、核となるモチーフがくり返されているかどうか です。 良い例にはあって悪い例にはない「覚えられる形」が、まとまりを生んでいます。

まとめ

モチーフの基本的な展開手法は3つです。反復(そのままくり返して統一感を作る)・ 移高(形を保って高さをずらす。キー内のダイアトニック移高)・リズム変化 (音高を保ってリズムだけ変える)。いずれも、元のモチーフと展開後をピアノロールで 聴き比べると、関連を保ちながら変化が生まれている ことが分かります。そして、 これらを使うときは 反復と変化のバランス が大切で、「同じすぎる」「バラバラすぎる」 の両極を避け、統一感と展開感を両立させます。次の章末演習では、与えられたモチーフを 自分で展開して、1セクション分のフレーズに広げてみましょう。